ワインに恋Vol.01 萩野浩之さん(アトリエ オッペ主宰)
Ocean Dinners代表早坂恵美が気になるワイン関係者にワインとの出会いを聞く「シリーズ・ワインに恋」。記念すべき第1回はアトリエ オッペ主宰の萩野浩之さんです。
聞き手・Ocean Diners 代表 早坂恵美
(私事的な序文)
2009年、フリーランスのライターをしていた私が起業し、ワインのインポートを始め、ほぼ同時に横浜駅の東口に50坪の酒屋併設(ナチュラルワイン専門)のフレンチを始めることになった。今なら絶対にそんな無謀なことはしないが、知らないとは恐ろしいことでなんとかオープンまで漕ぎつけた。その時、どうゆう経緯だったか全く思い出せなかったのだが、野村ユニソンに在籍していた萩野さんに出会い、相談した。横浜の事務所で、萩野さんは、横浜で有名な二人のソムリエさんの名前を挙げて、ご挨拶しましたか? と聞く。私はその方々を知らなかった。KさんとかYさんとかには? もちろん、知らない。それを聞いて、萩野さんは「え〜。怖いもの知らずも甚だしい」と大笑いしていろいろ教えてくれた。私はその印象が強くて、二人の大物ソムリエさんもKさんもYさんも怖くて仕方なかった(笑)でも、実際にはすごく優しい人たちで、虐められることも無視されることもなく、とても懐の深い方々だった。その時思った。萩野さん、やっぱ、関西の人やわ。目一杯、脅かされたわ(笑)私はそんな萩野さんが大好きで、何かあると萩野さんに連絡をする。萩野さんのことを書きたいと数年前に一度、つくばまで取材に行ったけれど、書きたいことが多すぎて、また萩野さん自身が謎すぎて、まとまらないので、自然派ワインの生き字引のような萩野さんが、出会っちゃった衝撃のワインに焦点を絞ってお話を伺うことにした。
萩野さんって、誰? と思うかもしれない方もいるかもしれないが、萩野さんは自然派ワイン界の「妖精」のような人。(見た目はともかく(笑))(プロフィール参照してください)。
自然派ワイン界に常に新しい風を吹かせている。
早坂 萩野さん、今、どこにいるんですか?
萩野(敬称略) 長野から帰ったばかりです。
早坂 萩野さん、最近、ますますアクティブですね。
萩野 今、日本ワインがめっちゃおもしろいので。
早坂 何か企んでいるんですか?
萩野 (笑)(→絶対何か企んでる!)
早坂 萩野さんの幅広くアクティブで、長いワイン人生の中でターニングポイントとなった瞬間って何だったんですか?
萩野 それはル テロワールというインポーターの立ち上げに関わらせていただいた1998年頃、当時、世界のワイン市場はロバート パーカーをはじめとする評論家が握っていました。濃くて強くて、複雑で・・・なワインが世界中から注目された時代。そんな頃に会社で輸入を始めたワインは、世の流れとは真反対だったんですね。ワインはどれもみずみずしくてピュアで飲み心地がよく、自分のそれまでの価値観にはなかったワインで、試飲した瞬間に思ったのが、「香りも味わいも、それまでのワイン用語では表現できない」という事でした。どう?と聞かれても、「分からない」としか答えられず、美味しいとか不味いとか、もうそういう次元のワインじゃないというのが最初の感想でした。
え、何? これ?
その時点では資料もなく、造り手のことがまったく分からなかったんです。ティエリー ピュズラ、クロード クルトワ、マルク アンジェリ、ピエール フリック、ティエリー アルマンなど、現在ではフランス・ヴァン ナチュールの大御所の造り手ばかりです。そのワインを仕入れた方(ワイン業界を今まで引っ張ってきた女性バイヤー)は、「これからはこういうワインの時代ですよ。」と自信満々。しかし、現実的にはまだ日本で知られていないタイプのワインを広めないといけません。取引先にワインの案内を発信するときに、見出しというかキャッチコピーを付けるのですが、どうしよう?私が知っているワインと何が違うのか。
私の答えは、きっと今までとは「違うタイプの人が造ったワイン」なのだという事でした。
「造り方」ではなく、「造る人」の違いをワインから感じる。
萩野 じゃあどういうタイプの人なのかというと、「シンプルでナチュラルな感性を持った人」というのが、私がワインから感じ取った造り手達の印象です。
ただ化学物質を排除するという意味の「ナチュラル」なだけではなく、人が色々と余計なことをしないという意味の「シンプル」なんですね。
シンプルでナチュラルだから自然派かな?と思って、「自然派ワイン入りました!」と見出しをつけてFAXで一斉送信しはじめたのが、1999年の事でした。
早坂 萩野さんがワインに出会ったのはその頃ですか?
萩野 いやいや、もっと早いんです。大阪のホテルで学生時代5年間アルバイトしていました。卒業旅行で1か月滞在したフランスで、そのホテルの岡さんというシェフソムリエと、オーデックスというインポーターの森さんにお世話になったのがきっかけで、北海道のリゾートホテルに90年から2年間勤務の後、オーデックスに転職。
僕、ご存知の通り、お酒弱いんです(笑)。だからリゾート開発に携わりたかったのに、バブル弾け、森さんにお世話になる形で東京に出てきました。フランスのオリジナルワインとグランヴァンの並行輸入をする会社でした。
ロレンツォの人柄とワインがつながった時に感動した。
早坂 それはもうワイン漬けの人生ですね。衝撃を受けて約20年以上になりますが、その中でさらに印象的なワインは?
萩野 衝撃を受けたのは、カーゼ・コリーニのロレンツォ コリーノ。17年前の2004年。僕が38歳の時に、イタリア中をレンタカーで2,500キロくらい走りまわりました。イタリアワインの仕入れ2週間出張でしたが、5日間「ヴィーニイタリー」とその年から始まった自然派ワインのサロンに参加する以外は、とにかくワインを求めて走りました。計画性なんてありません。現地の情報のみで動くのです。結果、ロレンツォ・コリーノに出会えました。もし、前もって完璧にスケジュールを組んだ出張だったら、出会っていなかったかと思います。よくあんな出張を会社が許しましたね(笑)。ロレンツォの人柄、ワインそのものに衝撃を受けました。
早坂 人柄とワインというのはリンクしていますか?
萩野 例えば初めて飲んだワインがヤバいくらい美味しかった時、「どんな人が造ったらこんなの出来るんだろう。」って思うんですよね。これを造った人に会ってみたい。多分仲良くできそう!みたいな。畑がオーガニックかどうかとか、亜硫酸(酸化防止剤)が入ってるのかどうかはどっちでもいいんですよね!結果的に「どうやって造ったかより、どういう人が造ったのか」が大事だと思います。ワインを通してその造り手と共感を得ることが出来た時に、感動するのだと思います。ただ美味しいだけじゃないと直感したときでしょうか?
早坂 将来、ワイン業界でどんなことをしていきたいですか?
萩野 若い人たちが自由な発想で生き生きと仕事が出来るように、そういう環境を作っていきたいと思っています。私が老害にならないようにしたいです。(笑)
早坂 やっぱり、萩野さんは自然派ワイン界の「妖精」。(笑)
萩野 何やねん、それ。(笑)
*萩野浩之プロフィール
1966年大阪市出身。1992年よりワインインポーターの営業職に就き、1999年より自然派ワインを日本に広める仕事に専念。2017年3月にインポーターの職を離れ、現在はフリーで活動中。
自然派ワインに関するアドバイザーや、イベント企画、有料メルマガによる情報発信などを行う。『御酒Vin帖(ごしゅヴァンちょう)-自然派ワインの御朱印帳-』を主宰。
*カーゼ・コリーニ
イタリア・ピエモンテ州。完熟したバルベーラから圧倒的な存在感のワイン造る。ロレンツォ コリーノ氏は農学博士で地質学の研究者。2004年に初めて出会った当時は、対外的にほぼワインを販売していないという、希少な造り手でした。